今回は管理人作品です。
いつも掲示板のコピペと人様の作品の晒しで金儲けをしているので、たまには矢面に立ってみます。
何かご感想をいただけたら幸いです。

なお、12/31~1/3は通常の半分ほどの更新頻度とさせていただきます。

毎度ご訪問、コメントありがとうございます。
来年もよろしくお願いします。

oomisoka_yoiotoshio_man

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「視点が統一されてない。描写がない。説明しかない。台詞が不自然。言葉の使い方がおかしい。以上の理由で君の小説は不完全だ」

 くっ……
 この……クソ野朗が!
 お前がなろうで書籍化したとかいうから、恥をしのんでアドバイスを求めてやったというのに、そんな言い方はないだろう。
 奴は机で俺の原稿をトントンと揃えると、

「早く俺に追いついてくれよ。ライバルが欲しいんだ」

 と言って、さわやかに笑いやがった。
 ぐおおおお許せねええええ!
 お前なんか、本当に、死ね!(語彙) あっという間に打ち切りにされて泣きわめくがいい!
 池面持男(いけつらもてお)。ジャニーズみたいな女に媚びた面構え。成績は学年トップ……じゃなくて五位あたりなのがあざとい。低身長のくせにバスケ部で、女どもから「かわいい」とかチヤホヤされていやがる。冗談もうまくてオタクグループとも会話できて、要するに俺なんかとは全然違う。
 あいつがモテるのは正直当たり前だと思う。でも、小説まで書けるってどういうことだよ。俺にも何か残しといてくれよ。欲張り過ぎるだろうが……!

 あーあ、何もやる気しねえ。
 家のソファーで横になって、とっくに飽きているスマホゲーをぽちぽちやっていると、

「ねぇ、ソファーで寝ないでって何回言わせんの」

 妹がケチをつけてきた。

「寝てねーし。起きてるし」
「くそボケ兄貴、頭に湿気たパン粉でも詰まってんのか。家族の共有物を占領すんなっつって言ってんだよ。耳の奥に手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ鳴らしたろか」
「はいはいわかったよもう……」

 この粗暴な女がクラスではモテるらしいが信じられん。ドMの集団じゃねーか。

「あ、ところでさ、兄貴って小説書いてんの?」

 と、妹が出し抜けに言って、俺の心臓は危うく止まりかけた。

「は? 俺が小説? なんで?」
「バスケ部の友達から聞いたんだけど」

 ああああああああああ!!
 絶、殺!!!!
 池面の野朗、バラしやがったのか! 最凶最悪のゴミ作者め!!
 あいつがモテるのは当たり前と考えたのを訂正する。あんなカスがモテてはいけない。あんなカスがモテる世界は間違っている。

「どんなの書いてんの?」
「何かの誤解だろ。俺は小説なんて書いてない」
「恥ずかしがらなくてもいいじゃん、プロになったらみんなが見るんだから」
「プロなんかなれるわけねーし」
「書いてはいるんだ?」
「……」
「笑わないから見してみ?」

 見せろ見せろとしつこく追ってくる妹をドアで遮断して、俺は部屋に立てこもった。
 うあああああもう学校行けねーじゃん……
 マジ最悪。絶対笑われる。オタクグループのことも見下してたから味方がいない。
 これ、ガチで、詰んでね? 「人生詰みかけてんなと思って小説で逆転目指したのに書いた結果詰んだ」って5chでスレ立てたら、みんな慰めてくれるかな。いや、よせよせ。バカにされるに決まってる。
 はあ~(クソデカため息) やばいやばいやばい。これからどうすればいいのかマジでわかんねえ。

 こうなったらトラックで転生だな!
 グーグルの検索窓に、

「トラック 転生」

 と記入。
 別に深い意味はない。そもそも人生に意味なんてないだろ?
 グーグル先生~、トラックで転生する方法を教えろください~。
 エンターキーぽちー。

 ぷちゅん

 画面が消えた。

「は?」

 え、どういうこと?? 故障? ググってはいけない言葉だった?
 ……?
 何の音だ? 遠くから、何か近づいてくるような……
 車の走行音? でも、どこから……
 あ、やべえぞこれ。どんどん近づいてくる。でもどこから来てるんだ。来てるのはわかるのに方向がわからん。

 ビシッ!

 パソコンの画面にヒビが入った瞬間、時間が止まったように感じた。そこで意識は途絶えた。

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「腰が入ってない。踏み込みが浅い。脇が甘い。刃筋が立ってない。以上の理由でお前の剣術は不完全だッ!」

 どちゃくそ怒られて、

 しょぼん……

 と、音が聴こえてきそうなほどショボくれるおっさん。もう見ちゃいられない。
 なんで俺がおっさんの剣術修行を見物しているかというと、こういうことだ。以下回想。

 意識を取り戻した俺は、口の中に入った土をぺっぺっと吐き出し、あたりを見回した。
 青い月明かりの下、鬱蒼とした森。
 おお、やったやった! よくわからんけど転生できたようだ。グーグル先生ありがとう。

「……」

 いや違うわ。これ転生じゃなくて転移だわ。服も学生服のままだし能力身についた気もしないし。
 まぁでも、もう学校行かなくて済むんだからいいか!

「あのー……」

 と言いながらどこからともなく現れたのは、背中に羽の生えた、清楚な顔の女の人だった。
 テレ昼の羽後アナウンサーに似ている。控えめに言って付き合いたい。

「私、次元管理官のググリと申します。このたびは誠に申し訳ございません」
「?」
「なる早で元の世界へお返ししますのでご安心ください!」

 え、ちょ、待。

「あの、別に帰りたくないんですけど」
「お気遣いは結構です」
「いや、お気遣いじゃなくて……」
「あなたを転移させてしまったのはちょっとした手違いなのです」
「手違いを受け入れるっていうのはナシですかね」
「ナシですね。もうこの世界には転移者様がお一人いらっしゃいまして、一世界に転移は一人までという決まりがございますので」
「そうですか……」

 うっそぉ~ん。ぬか喜びしちゃったじゃん。お詫びに結婚してくれ。

「それで、大変恐縮ですが、お帰りいただくための諸々をアレしてコレして上層部の承認を得るのにおよそ一ヶ月ほどかかります」

 おっ。

「その間、現実の時間は?」
「ご心配なく。ちゃんと元の日時にお送りしますので」
「……」

 クソ学校生活を一ヶ月飛ばせるのかと思ったら、それもナシかよ。何か都合のいいこと一つぐらい起きてくれませんかね。

「というわけで、今から一ヶ月間、『転移者の守護霊』としてお過ごしください」
「はい?」
「そのポジションが一番安全ですし、迷子になる心配もございませんので」
「能力は?」
「飲まず食わずで生きていけます。転移者様の半径10メートル以内なら浮遊できます。転移者様にしか姿が見えません。転移者様としか話ができません」
「つまり、ただ見守るだけ?」
「そういうことになります」

 うへえ、つまんなさそう……

「それでは、どうぞお元気で!」

 と言って、ググリさんは大きく手を振った。

 次の瞬間、俺の体を前から後ろに何かが勢いよくすり抜けていった。

「!?」

 怒号。固いもの同士がぶつかり合う音。立ち込める土煙。

「立て! サイラス!」

 と、鎧の男が怒鳴った。
 どうせ俺の語彙では表現できないが、とっても強そうだ。
 振り向いてみると、サイラスと呼ばれた冴えないおっさんが尻もちをついた態勢から「ぐぐぐ……」という感じで起き上がろうとしている。
 同じ鎧を着ているのに何だろう、この差は。片や本物の騎士、片やコスプレにしか見えない。
 おっさんは俺と目が合うと、

「え?」

 という顔をしてフリーズした。
 説明されてないのか。

「サイラス!」
「ひっ!」
「何を惚けている! 立て! かかってこい!」
「は、はいっ!」

 脇によける俺をチラ見しながら、おっさんは木剣を構え、男に向かって突撃していった。
 必死の打ち込みを男は事もなげに払う。

 ガッッ!!

 うわっ、動きは小さいのにスゲー音!
 おっさんは吹き飛ばされてまた尻もちをついた。
 そんなようなことを何度か繰り返して、冒頭のダメ出しに戻るのである。

 兵士宿舎にて、俺が何者なのか説明すると、おっさんは、

「やっぱりそうだったか……」

 と言って、力なく笑った。

「前の世界ではコピー機の営業マンをやってたんだ。君はコピー機って欲しいと思う?」
「いや……全然」
「だよね。もちろん個人向けじゃなくて企業向けなんだけど、企業も全然買ってくれないんだ。今は何でもオンラインで済ませるから需要が相当下がってるんだよね。なのにノルマは軽くなるどころかどんどん厳しくなって、達成できないと上司に怒られるし、しつこく売り込んだら今度は相手先に怒られるし……」
「……」
「唯一の趣味がオンラインゲームでね、中世ヨーロッパみたいな世界にずっと憧れてたんだ。でも、現代の日本のほうがずっとマシだった。剣振り回して戦うのがこんなに大変だとは思わなかったよ……」
「……」

 ぐち。ぐち。ぐちぐちぐち。
 訓練がきついという話に始まり、飯がまずいだの便所が汚いだの、愚痴は際限なく続いた。俺の感情は最終的に同情2:イライラ8ぐらいの割合に落ち着いた。
 おっさんが寝静まっても眠気は来なかったが、やることもないので宙に浮いたまま目を閉じると、いつの間にか眠っていた。

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 代わり映えしない日々が続いた。
 おっさんは、まるで成長しなかった。同じように吹っ飛ばされて同じことを言われ続けた。
 上空から見ているとよくわかる。鎧の男の言う通りだ。他の人に比べて、腰が入ってない。踏み込みが浅い。脇が甘い。
 どうして言われたことを直さないんだろう。何をムキになってるんだろう。

「……あ」

 それって、俺か。
 池面にダメ出しされた時、「直そう」じゃなくて「この野郎」としか思わなかったもんな。

「サイラス! 休むな!」
「はい!」
「そんなことで聖騎士が務まるか!」
「……うああああああ!」

 強くなることに繋がらない、感情的な突進。この人はこの世界でこんなことをずっと繰り返すんだろうか。

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 今日で一ヶ月。このまま帰るのもモヤモヤする。

「あのー、サイラスさん」
「君までその名前で呼ぶのやめてよ。ただの斉藤だよ、僕は」
「でも、元の世界にはもう帰れないでしょう」
「それはそうだけど」

 思い切って、上空から見て感じていたことを伝えると、おっさんは急に不機嫌になった。

「で?」
「いや、だから……やり方を変えたら強くなれるんじゃないかって、思ったんですけど……」
「君は剣道か何かやってるの?」
「いえ、やってませんけど……」
「大人に指図するなよ、子供のくせに」

 この一言にはカチンと来た。

「そんなだから前の世界でもうまくいかなかったんだよ!」

 噛みついてきたのが意外だったんだろう。おっさんは一瞬ひるんだ顔を見せたが、すぐに反撃してきた。

「いいよね、君は。安全なところから言いたい放題言えて。木剣で打たれる痛さも知らないで偉そうにアドバイス? 笑わせないでくれよ。前の世界でもそうしてたんじゃないの? どうせネットで匿名で言いたい放題言ってたんだろ?」

 図星だった。なろう発の人気ラノベを5CHで叩きまくったことがある。でも、今は自分のことは棚に上げる。

「俺がどういう奴でも関係ないだろ。おっさんのためを思って言ってやってんのに、なんで素直に聞けないんだよ」
「放っといてくれよ。君は何かの間違いで飛ばされてきただけなんだろ」
「真面目にさ、このままでいいの?」
「何が」
「今のままで戦場に送り出されたら、その……死ぬんじゃないの?」
「……心配してくれてたのか。悪かったね、キツいこと言って」
「……」
「そもそも僕は戦いたくないんだ」
「え?」
「世界史の授業で『十字軍』ってやった?」

 表向きは聖地奪還。しかし実態は侵略。聖騎士とは侵略者の称号なのだと、おっさんは語った。

「僕は悪事に加担したくない」
「だったら……」
「逃げろって言うの? 逃げ切れると思う?」
「……」
「死にたくはないから一応戦うけど、死んでもしょうがないと思ってるんだ。ごめんね、せっかくアドバイスしてくれたのに」

 ああ。そうだったのか。じゃあ、何も言えない。戦えとも死ねとも言えない。
 俺が黙っていると、

「戦えたら良かったかもしれないね」

 と言って、おっさんは拳を握りしめた。

「あのクソ上司に『こんなノルマ無理に決まってんだろ!』『単価高過ぎだろ!』って言ってやれば良かった。どうせ死ぬなら自分の思う通り力いっぱいやってみれば良かったよ」
「……」
「後悔だらけだね、僕の人生は」

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 翌朝、目を覚ますと、おっさんの姿がなかった。いつも俺より遅く起きるのに。
 部屋から廊下に出てみると、

「おい、そこの!」

 怒号が飛んできた。
 え、俺? 俺に言ってる? 俺が見えてる?

「さてはお前、サイラスの仲間だな!」

 あ然としているうちに、幾人もの兵士たちに囲まれた。
 抜き身の剣――なんて存在感。人を殺すために作られた道具が何本も俺の喉元を狙っている。この場に立っているだけで心臓がつぶれそうだ。
 そして、難なく捕まり、引きずられた。痛、い、痛い。痛いけど怖くて声も出ない。
 どうなってんだ。なんで俺のことが見えて、触れる? 一体何があった?
 兵士が俺の髪をつかみ、

「見ろ!」

 と、乱暴に顔を上げさせた。
 目に飛び込んできたものは――

 おっさん

 ――の、生首。

「他にも仲間がいるだろう。吐け。さもないとこいつと同じ目に合わせるぞ」

 ああ、そういうことか。バカな俺でもさすがにわかった。
 おっさんは戦ったんだ。戦場ではなく、聖騎士たちと。聖戦ではなく、侵略だと主張して。訓練で手も足も出なかった男たち相手に、戦って、負けたんだ。
 いや、負けなもんか。あなたは本物の戦士だ。前の世界でつかめなかったものをつかんだんだ。

「おい!」

 怒声と同時に、腹を強く蹴られた。
 激痛、吐き気。
 うめく間もなく顎をつかまれ、

「何とか言ったらどうなんだ」

 獣のような目が俺を睨みつける。
 憑依先であるおっさんが死んだことで霊状態が解除されたんだな。でも、何が起きたかわかったところで俺にはどうにもできない。

「言っておくが、楽に死ねると思うなよ」

 左腕に強い力がかかった。
 折られる――と思ったその時、

「すみません! 遅くなりました!」

 ググリさんの声。
 次の瞬間、俺は虹色のトンネルのような空間にいて、一方向に流されていた。

「……危険な目に合わせてしまい、申し訳ありません」

 ググリさんの姿は見えず、声だけが聞こえた。

「……転移者死んじゃいましたけど、あの世界はこれからどうなるんですか」
「さぁ」
「さぁ、って……」
「そもそも勇者や英雄として召喚されるわけではありませんから」
「じゃあ、転移って、何なんですか?」
「救済です。生まれ落ちた世界に適合できない人は常に一定の割合で存在します。そんな人にチャンスを与えるのが転移……ですが、近頃は転移先でより良い人生を歩めるよう過剰に取り計らう管理官が増えているようで」
「……ググリさんは現実主義者なんですね」
「幻滅なさいましたか?」
「いえ、別に。死んだおっさんの分まで、元のクソ現実で頑張ります。助けてくれてありがとうございました」

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「ねぇねぇ、サインちょうだいよ」

 翌日、始業前の教室で、いつも俺のことをオモチャにしている粕野茶羅男(かすのちゃらお)がからんできた。

「サイン? なんで?」

 タメ口で返されたことに腹を立てたのか、粕野は荒い声を出した。

「えー? だってさ、小説書いてるんでしょ? 小説家先生のサイン欲っしいな~」
「俺の小説読んだの?」
「……は?」
「読んで気に入ってくれたならサインするけど」
「はあ? 何急にイキってんの? お前何様?」

 粕野は精一杯の迫力を出そうと頑張っている。
 この前までの俺はこんなのにビビってたんだな。情けない。あの世界で触れた本物の殺意に比べたら屁みたいなもんだ。

「まだ読んでないなら今読んでよ。プリントしたのあるから」
「……あーあ、お前、つまんね。寒いわ」

 粕野が俺に背中を向けたのと入れ違いに、池面が教室に入ってきた。

「おはよう」

 俺に声をかけられたことに驚いたんだろう。池面は一瞬目を見開いたが、すぐに繕ったような笑顔になって、

「おはよ」

 と返してきた。

「あのさ、視点が統一されてないってどういうこと?」
「え?」
「俺マジで何もわかってないから、もっと詳しく教えてほしいんだ」
「……」
「悪いところを直して、上手くなりたい。本気で小説家になりたい」
「いや、無理だよ、お前には」
「何が足りない? 具体的に教えてよ。やれるだけやってみたい」
「なんで俺がお前の手伝いしなきゃいけないの?」
「ライバルが欲しいんだろ?」

 池面は数秒間、俺の目をじっと見た後、

「バラしてごめん。力になるよ」

 と言った。
 再び訂正する。この男はモテていい。
 俺はモテなくていい。戦うんだ、あの人のためにも。

(了)