武装島田倉庫
カバー装幀=平野甲賀/発行所=新潮社

椎名誠さんというと、一般に「『岳物語』を書いたエッセイスト」もしくは「ビールとラーメンをこよなく愛するエッセイスト」あるいは「あやしい探検隊の隊長」というイメージなのではないでしょうか。けれども僕は「SF作家」としての椎名さんが大好きで、数あるSF作品の中で最もオススメしたいのがこの『武装島田倉庫』なのです。
『武装島田倉庫』は架空の戦後を舞台にした近未来(?)の冒険譚で、7本の短編による連作の形を取っています。7本は別々の視点・場所で描かれており、巧妙なリンクによって、奇々怪々な世界を立体的に構築しています。



全編を通して圧倒的な存在感を放っているのが「かみつきうお」という異態進化した魚です。こいつは名前の通り獰猛な牙を持ち、海を渡る人々にとって脅威であるのはもちろん、陸に上がってきて暴れ回ることもあります。正しくは「魚へんに乱+魚へんに齒」と書くのですが、今調べてみたところ、これは創作漢字だったようですね。この「かみつきうお」の他にも、さまざまな異形の生物が人々の生活を脅かしています。

さらに、異常生物と同等かそれ以上に恐ろしいのが「人間」です。「北政府」という謎の勢力や、北政府の手先とされる「白拍子」、民間の略奪組織などがウヨウヨしています。日増しに治安が悪化していく中、自衛のために武器を持つというのが、7本中の1本目『武装島田倉庫』です。主人公の「可児」が島田倉庫に入社するところから始まり、「百舌」という新人を迎え入れるところで終わります。

(※以下、多数のネタバレがあります)



2本目の『泥濘湾連絡船』では、この世界の海がひどく汚れて「泥濘化」していることが示されます。本作が発表された平成2年(1990年)は環境基本法が施行される3年前――つまりこの頃はまだ日本中で川も海も汚しまくりだったわけです。自然を愛する椎名さんの静かな怒りや警告がこの「泥濘化」に込められているような気がします。

3本目の『総崩川脱出記』は、2本の舞台となった「阿古張湾」に注ぐ「総崩川」を下っていく物語です。もう残り数人になってしまったとある一族がさらに人数を減らしながら過酷な旅をします。

4本目の『耳切団潜伏峠』は、1本目の最後に登場した「百舌」がどこからどうやって島田倉庫にやって来たかというお話です。1本目は「新入りだった男が新入りを迎え入れる」という単独でも完成された構図になっており、その中で百舌はすでに十分良い仕事をしていたわけですが、あとから前日譚が描かれることによって、読者の愛着は否応なく肉付けされます。

5本目の『肋堰夜襲作戦』は、肉親を失った市井の人々が「北政府」に反撃を加える物語です。「ジーゼル」という男は、登場して少し経ってから、2本目で行方不明になった「漬汁屋」だということが明かされます。

6本目の『かみつきうお白浜騒動』にも2本目とのリンクがあります。別冊の『鉄塔のひと』という短編を読んでいると、椎名さんの「足の長い重機への憧憬」が伝わってきてニヤニヤが止まりません。

ラスト7本目の『開帆島田倉庫』は1本目の続きで、再び「可児」視点となります。5本目で行われた攻撃がきっかけとなって戦争が再開されます。「北政府」が一体どんな目的で何を倒そうとしているのか――そのあたりは最後まで謎に包まれたままですが、当然、そんなことは説明されないほうがいいのです。



『武装島田倉庫』は『アド・バード』・『水域』と並んで、椎名さんのSF三部作の一つとされています。この中で『武装島田倉庫』が最も短く、巧みなリンクを楽しみながら人間の力強さに触れられる作品なので、とりあえずこれだけでも読んでみてください。




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