実は滑稽本、今でいうところの小説も江戸っ子の間ではたいそう流行しておりました。
そんなわけで俺も小説で一山当ててやろう、なんていう若者も多かったようで、
熊「よっご隠居!」
ご隠居「どうしたんだね熊さん」
熊「いや、俺『なろう小説』を書こうと思うんでさ」
隠居「また意味の分からねえことを言い出したねお前は。なんでそんなこと考えたんだい」
熊「いや、俺もほら、一発当てて有名になって吉原あたりでも『キャー先生』みたいに言われてえんですよ」
隠居「まあ、しかし小説っていうとあれかい、滑稽本みたいな奴だろう。そんなもんお前、簡単には書けないだろうよ」
熊「ご隠居、『なろう小説』ってえ奴は滑稽本とはちょっと違うんでさあ」
隠居「何が違うっていうんだい」
熊「まず、小難しい理屈も義理人情もいらねえ。ともかく冴えねえ主人公が神輿に轢かれておっ死んで、天竺あたりに生まれ変わり、為朝公のお力をもらって悪党をバッサバッサ、
それで女どもがワーッと集まってくる。だから俺みたいな大工しかやったことがねえ奴でも書けるって寸法で」
