ダウン症児の母親です!
©たちばなかおる『ダウン症児の母親です!』/講談社

僕には知恵遅れの叔父が一人います。一緒に暮らしていないので、工場で働いているということ以外、詳しいことはほとんど知りません。正確には何という病名で、自治体からどんな支援を受けていて、毎日をどうやって過ごしているか――そういったことは何も知りません。小学生時代に抱いた「おばあちゃん家にはちょっと変なおじちゃんがいる」という認識が今もほとんど変わっていないということだと思います。

皆さんの身近には、知的障害を持った人がいるでしょうか。
周りに知的障害の人はいないけれど日テレの24時間テレビで見たことがある――という人は結構いるのではないでしょうか。よく言われる「障害者を利用した感動モノで視聴率を稼いでいる」という批判はまったくその通りで、少しもバリアフリーの実現に寄与するものではないと思います。


余談ですが、僕は意識的に「障碍」や「障がい」と書かず、「障害」と書いています。字面をソフトにすることはむしろ問題の本質から目をそらすことだと思うからです。調べてみたら、2015年には千葉市長がこんな発言をしていました。



僕は千葉市長の考えに全面的に賛成です。



さて、前置きが長くなりました。

ダウン症は遺伝性疾患の一つです。これまでは「1000人に1人」という説が一般的でしたが、日本人の出産年齢が上がってきたからか、サイトによってはもう少し高い発生率を示しているところもありました。

染色体異常による疾患のうち、1番多いのが「ダウン症」であり、600人~700人に1人の割合で出生すると言われています。知的発達の遅れや特有の顔立ち(丸くて起伏の無い顔、つり上がった目、耳が小さい)など、典型的な特徴をもち合わせています。
難聴や視覚障害(遠視や乱視)を併発する等合併症を持つことも多く、小さいころは風邪を引きやすかったり心臓にトラブルが起こったりといったように、体が弱い子どももいます。ただし個人差が激しく、このように重い合併症にかかる子どももいれば、ほとんど合併症が無い子どももいます。成長すると共に身体は強くなっていくことが多いです。
ダウン症候群によく見られる行動リスト

意思を上手に伝えることができない
思っていることを言葉で上手く表現できない。発音が不明瞭で聞き取ることができない。

理解が遅い
集団への一斉の指示では理解することができない。

自己中心的な情緒傾向
頑固で自己中心的。集中力や持続量が無く、すぐに飽きてしまう。

運動能力が低い
疲れやすい。筋力も弱く、体力そのものがあまり無い。

上手く交友関係を築けない
友だちよりも大人(教師など)との関わりを強く求め、交友関係を広げることが苦手。

何でも口に入れてしまう
紙やスポンジなど、何でもすぐに口に入れてしまい食べてしまう。

※リストはダウン症候群の子どもに一般的にみられる行動の一例です。


『ダウン症児の母親です!』の著者、たちばなかおるさんは漫画家です。僕はパチンコの漫画雑誌でたちばなさんの作品を見たことがありました(笑)。非常にテンションが高くて親しみやすい絵を描かれる方です。

本書は、ユンタ君が生後3週間でダウン症との告知を受けてから小学校の特別支援学級に入学して1年が経つ頃までの詳細なレポートです。何が詳細かというと、たちばなさんの心情です。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言われるように、人間は過去のつらい記憶の細部を結構忘れてしまうものですが、たちばなさんはかなり細かい点まで覚えていて――それだけ印象深かったのかもしれませんが――率直に書いています。しかも、自分を立派な人間に見せようという意図が微塵も感じられません。ほとんど神様に告白するようなレベルで、その時々に感じたことをそのまんま書いています。少なくともそのように読めます。

「つらいこと」を隠さずに書いているのが本書の素晴らしいところです。「ダウン症」でググると、検索結果の上位には親を安心させるようなことばかり書いたサイトが並びますが、本書は「どんなことがどれだけしんどいか」、「今後どんな不安があるか」を明らかにしています。さらには、こんなこともおっしゃっています。

 子どもの障害自体はもちろんマイナス事項なんですが、そこをサポートしてくださる方々からいただく笑顔や誠実さ、そして自分なりに最大限持ち続けている感謝の気持ち。それらが絡み合ってできている今の日常は、決して不幸なものではありません。むしろ「いい感じ」だと思っています。
 だからといってもちろん、障害児のいる暮らしが障害児のいない暮らしよりも上質だとか、精神的に豊かだとか、ひいては「日々感謝の生活サイコー! 障害児がいても全然オッケー! 出生前診断で陽性だった人も生んだほうがいいですよ!」とアピールしたいわけではありません。
©たちばなかおる『ダウン症児の母親です!』p.103/講談社

「子供は親を選んで生まれてくる」とか、「みんな違ってみんないい」みたいな根拠のない無難な励ましより、たちばなさんのストレートな言葉のほうがはるかに“人を活かす力”を持っていると思います。



また、これは人間の多面性を見事に描いた本でもあります。

人間は本来「○○キャラ」とか「○○担当」みたいに分類されるものではありません。「○○だけど○○な一面もある」みたいな二面性で説明するのも実は浅はかです。本当はみんなX面性であり、X=未知数です。あまり複雑だと読者がついてこられないから、普通は二面性程度にとどめてしまうわけですが。

「障害児のお母さんで漫画家」という設定だけ見て、読者はまず各々の中でわかりやすいキャラを思い浮かべるでしょう。でも、読み進めていくうちに、たちばなさんの内面の複雑さを知ることになるのです。

テーマとしては「重い」ほうに入るかもしれませんが、著者の「長年の友達」みたいな気持ちになれる一冊です。




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