なろう小説は「主人公が不幸になる回」で明確に読者離れが起きる

「小説家になろう」は国内最大手のネット小説投稿サイト。ご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、読売、朝日、毎日、産経の四新聞社の合計アクセス数を遥かに超える月間16億PVを誇るサイトと言えば、その規模が理解頂けるかもしれません。

『Re:ゼロから始める異世界生活』、『この素晴らしい世界に祝福を!』、『魔法科高校の劣等生』など、近年では映画やTVアニメにおいてこの小説投稿サイト発の作品群が無数に放映されており、出版業界において2010年代における大きな一つの潮流の源泉がこのWEB小説投稿サイトであることは紛れもない事実でしょう。

そんな「小説家になろう」に投稿されている小説作品群は、一般的に『なろう系』などと呼ばれています。

上記の三作品は例外に属するのですが、一般的な認識における『なろう系』作品はどの作品もまるで金太郎飴のように、“平凡”な主人公が“異世界転生”をして文明度の劣る世界で“現代知識”をひけらかし“ハーレムを築く”という、非常に明確な「願望充足型」作品の一ジャンルとしてみなされる事が多いとされています。

つまり、「読んでいて気持ちよくなれる」ことに重点をおいた内容であると言えるかもしれません。

このなろう系の典型的なお約束とも言うべきパターンは、“なろうテンプレ”などとも称されることもありますが、小説家になろうがここまで興隆した理由の一つは間違いなくこの“なろうテンプレ”が構築されたことにあると考えます。

読者が「プロデューサー感覚」を抱ける

実際に編集者が介在しないために、作者と読者との距離感が極めて近いことがWEB小説の特徴です。

読者も作者も互いに作品に関して会話を重ねる感想欄という場が用意されており、作中の誤字からストーリー展開に至るまで、ここで作者と読者の間で交わされた会話は物語に反映されることもしばしば見受けられます。

その意味においてWEB小説の読者は、自分の気に入った作品や作者を育てる監督であり、そして作者や作品をランキングの上位や商業へと羽ばたかせるプロデューサーの役割を担います。言ってしまえば、あの作者はワシが育てたという認識を得ることができるとも言えるでしょう。

これは商業という場において明らかなアドバンテージとなります。何しろデビューしたての新人にもかかわらず、最初から自分を育てたと認識してくれているファンがたくさんついてくれているのですから。

この点は一般的な新人賞出身の作家に比べ、商業面に置いてもWEB小説出身者の大きな優位性となってきました。また見方を変えれば、最初から読者が多数ついた新人作家という異例の存在であるWEB出身作家は、作品の刊行にあたり自己プロモーションが既にWEB上でなされています。

それ故に低コストの宣伝費用で済むことから、新文芸と呼ばれる新たに生まれた無数の出版社のレーベルに置いて重宝がられた一面があるとも言えるでしょう。

ストレス値の高い回で読者が離れる

さて、この読者と作者の蜜月関係。一見すること望ましいことばかりであるように感じられますが、考え方によってはこれは物語制作の上である種の制限が生まれることを意味します。

この文章を読んでいる人において、日常で不幸な出来事やストレスを好む人は多くないでしょう。それと同様に、ネット小説の読者も不幸な出来事やストレスを極端に嫌います。

これは小説家になろうの作品群が二次創作に端を発したこととも重なりますが、作品の主人公に対し俺ならばと自己投影された物語が少なからず存在し、そして読者も自己を投影できる主人公を好む傾向があります。

だからこそ作者もそして読者も現実の自分と登場人物を重ね合わせ、主人公に不快な思いをして欲しくないという感情や、鬱な展開を忌避する傾向が顕著に現れます。

実際にこれらは小説家になろうの話数別のアクセス解析という機能を使用することで、明確に数字をもって主人公が不幸となった回で明確に読者離れが起きていることが把握できます。

また小説家になろうのランキングを統計処理しても、物語の谷とも呼べるパートでは如実に数字の低下を認めることがわかっています。

鬱な展開で読者離れが起きる→その結果がアクセス解析によって明らかになる→それを作者が見て鬱な展開を避けようとする……といった具合に、循環的にストレスがかかる展開が排除されていくことになりえるのです。

競合はスマホゲーム

さて、このようななろう系小説に関しては、一部では「異世界日記」などと表現されることもあるようですが、それは言い得て妙だと思います。

日記であるがゆえの日常体験……つまりリアリティを感じられる程度の過剰過ぎないギリギリの幸福が持続し、物語が緩やかな上昇カーブを描くことが、読者を満足させる一つの最適解と考えられるからです。

これはなろう系が二次創作だけではなく、「日常系」(大きな事件が起こらないのんびりとした日常を描く漫画やアニメのジャンル)の延長線上に存在するとされる理由でもあるのですが、これらの傾向はPCからのアクセスよりもスマホからのアクセスが増えた頃より顕著となっています。

実際のところ、この変化はおそらく2015年頃より著明となっています。理由は明快であり、日常のスキマ時間などにスマートフォンで毎日なろう小説を読むという習慣の結果だと考えられます。

スキマ時間にちょっと気持ちよくなれるコンテンツをスマホで消費する――言うなれば現在小説家になろうの作品が闘っているのは、商業ライトノベルではなくスマートフォンゲームなどとの時間の奪い合いなのだと言えるかもしれません。

それを如実に反映しているのは、小説家になろうにおける作品一話あたりの文字数の最適値……つまりランキングに上がるためにポイントを稼ぎやすい文字数は5年前に比べほぼ半減している事実がこれを根拠づけます。

PCからのアクセス比率が高かった2013年頃は、ランキングを上がるために最適な作品の一話あたりの文字数は5000文字以上となっていました。しかし現在は2000〜3000文字が、1話あたりの最適な文字数となってきています。つまりこのことは、読者が毎日一作品に対して割く時間が短縮されて来ているということを意味します。

もちろんこの文字数の変化は、日常の一部になろう小説を取り入れてもらうための変化の結果なのでしょう。スマートフォンで隙間時間に作品に触れるのに最適な分量を追求した結果なのですから。

言い換えればこの文字数という観点、そしてストレスを排除した作品の渇望は、日常と小説とがネット小説投稿サイトという場を介して地続きとなっていることを示唆していると見て取れます。

一般的にSNSとの連動性が高いと言われるネット小説ですが、無数の例外はあるものの改めてこうしてその人気の成立過程と置かれている環境を踏まえると、ストレスフルな現代社会に対するある種の救いとしてなろう系小説が求められていると言えるのかもしれません。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64174

 

 

 

 

 


長めに引用させていただきましたがとても面白いのでぜひ元記事をご覧ください。

なぜ「異世界転生」は若者にウケ続けるのか?(津田 彷徨) | 現代ビジネス | 講談社

関連記事
なろうチーレムテンプレ作家さん「庇ってくれるのは嬉しいけど『つまらないなら自分で書け』って騒ぐのはやめてほしい」
なろう作家よりなろう読者をなんとかしよう委員会
なろう読者「主人公が登場人物全員にちやほやされるの最高ンゴ!」
心理カウンセラー「ラノベ・アニメは中高生向けという建前とは裏腹に、30代がメインターゲットとなっています」