『すべてがFになる』の感想「煙草がおいしそう」

2019年12月13日


森博嗣さんの『すべてがFになる』を読みました。

 

一言で言って

とても面白かったです(小並感)。タイトルも含めて無駄なパーツがなく、すっきりと読み終わりました。第1章の会話で「これは一筋縄ではいかないぞ」と期待を膨らませ、中盤はサクサクと読めて、終盤はもう寝たほうがいい時間なのに一気読みでした。

とてもサクサクしているのに、たまに一気に加速するところがあって、緩急、もとい急・特急のつき方がきれいでした。改行の仕方が上手いのだと思います。加速するところは明らかにページあたりの文字の密度が下がります。

 

キャラについて

犀川がかっこいいです(小並感)。森博嗣とかいう誰もが一度はハマるミステリ作家に書かれていた「この人の書く天才が一番天才っぽい」とか「犀川の意味なしジョークホント好き」の意味がよくわかりました。

前回『滴水古書堂の名状しがたき事件簿』では「主人公の由宇子が魅力的」と書きました。こちらも『滴水古書堂』同様、恋人同士でない男女のバディものという要素がありますが、率直に言って萌絵のことは少し苦手でした。犀川のことを敬愛するあまり、ゼミの他のメンバーをナチュラルに見下している感じがしたからです。とは言え、若い女の子にはありがちなムーヴであり、「こういう子おるよな」で済ませられます。十年前なら「うわこいつ嫌いやわ」と強く拒んでいたかもしれません。



 

煙草がおいしそう

個人的には煙草は一切吸いません。近くに吸う人がいたら息を止めます。

が、本作を読んで初めて「煙草っておいしそう」と感じました。吸えずにイライラしているところなどは「これが中毒者か……」と空恐ろしくなったりもしましたが、ところどころの一服が最高においしそうで羨ましくなります。惰性で吸っているのでなく、「うまい」とハッキリ書いているのが好印象です。

何かがおいしそう、というのは小説においてとても重要なポイントだと考えています。食と言えば池波正太郎さんで、やはりあの方は圧巻です。村上春樹さんのやれやれ成分ともてもて成分は苦手ですが飲食のシーンは好きです。

 

思想に共鳴した

「地球環境を守りたいなら、人は移動すべきではありません」と、真賀田女史が言っています。また、犀川は大学の会議をクソ無駄だと思ったり、研究所を理想的だと言ったりしています。

小説は論文ではなく、登場人物の思想は必ずしも作者の主張ではないはずですが、個人的には強く共鳴しました。会議は無駄という点が特に(笑)

 

次回はご推薦いただいた『恋文の技術』……の前に、読みかけだった『世にも危険な医療の世界史』という本の感想を書かせていただきますm(_ _)m