有川浩『塩の街』の感想

2020年2月1日


有川浩さんのデビュー作『塩の街』を再読しました。

 

つらつらと感想

年齢的なものだと思いますが、本編よりサブストーリーのほうが面白かったです。ノブオのクソガキっぷりには「よくこんなもの文章化できるなあ」と驚かされましたし、由美の心情は読みごたえがありました。本編はベリースイートで「素敵なお話だな」と思いましたが、萌えたか萌えなかったかというと萌えませんでした。

秋庭が完璧過ぎる点について、あまり良い印象を持ちませんでした。しかし、最後の最後で弱みを見せてくれたので好感度がグッと上がりました。

入江が真奈を白い部屋に入れる理由が釈然としませんでした。人質に取られるまでもなく、秋庭はすでに真奈のために行動を開始しています。米軍にもう話が通っていることもあり、秋庭に脅しをかける必然性がありません。全人物が合理的な行動を取るべきというのではなく、超絶頭がいい設定のキャラがあまり意味のないことをするのは違和感があるということです。

 

この作品のすごいところ

世界観が抜群です。人が塩の結晶になって死ぬという残酷かつ美しい現象が読者を魅了します。物語においてはあくまでも脅威であり、塩を吹く描写などは生々しく、決して美しいものとしては描かれていませんでしたが、それでも想像されるイメージはどこか美しいという巧さがありました。遺体の残り方も印象的です。

 

「セカイ系」という言葉の弊害

その恐ろしくて美しい「塩害」のおかげで二人は出会い、全世界ではなく相手一人を救うために戦う――「ドンピシャのセカイ系だなあ」と思うと同時に、「セカイ系という分類に当てはめて解釈できた気になってしまうのはどうなんだろう」という疑問が湧きました。

作品群を分類して考察するのは有意義なことだとは思いますが、ただ鑑賞するだけなら分類を知らないほうが幸せなのかもしれません。「ああセカイ系ね」と思うか、「なんてステキな話なんだろう!」と感動するかの違いです。



 

読み返す意義

個人的に、同じ本を読み返すことは滅多にありません。今回はご推薦いただいたので読んだ次第です。

初読は多分、20年10年ぐらい昔です。タイトルと表紙に惹かれて買いました。かすかな記憶を頼りに比較すると、当時と今回で真奈の印象がかなり変わりました。当時は確か「ガラス細工みたいな弱々しい少女」というイメージだったのですが、今回は「女の子に好かれる健気な女の子」と感じました。おそらく初読当時の自分には襲われるシーンが衝撃的で、抵抗の虚しさが強く影響したのだろうと思われます。

自分の年齢や状態によって感想は変わりますね。たまには再読もいいものだなと思いました。20年10年も時間が経つと、もはや再読ではないかもしれませんが……

 

実は

有川浩さんは何作か読んだのちに敬遠していました。具体的には「明るいシーンのセリフ回し」(もう少し厳密に言うと「地の文がシリアスなまま会話がアニメっぽくなること」)が苦手なのです。鬼滅の刃がしばしば「ギャグのノリがキツい」と言われていますよね。あれと同じ、生理的に合うか合わないかの話です。個人的に「鬼滅は流せるけど有川さんは苦手」ということです。本作でいうと、「秋庭さん秋庭さん秋庭さん! 待って待って待って!」等です。

感想記事ではしばしばネガティブなことを書いていますが、「テレビの食レポじゃないんだから絶賛じゃなくていい」というスタンスです。

 

次回は中村哲さんの『アフガニスタンの診療所から』を読んでみます。