中村哲『アフガニスタンの診療所から』の感想


本屋さんでピックアップされていたので買いました。

 

この世の中のわかりにくいこと

いくらでもありますが、個人的に「中東情勢」はその筆頭に上がってきます。

本書は、アフガニスタンとパキスタンでハンセン病を中心に医療活動を行い、昨年12月に銃撃されて亡くなった中村哲さんの著書です。中東情勢の解説書ではありませんが、一人の人間の奮闘を通して、中東の一面がくっきりと浮かび上がってきます。教科書や年表、有名な人物をめぐる記録だけでは俯瞰しかできません。本書のような一個人の著書こそ、一時代の記録・研究において重要な資料となります。

 

心に残ったところ

中途半端な、あるいは竜頭蛇尾な「支援」に対して、かなり厳しい口調で批判しているのが印象的でした。少し長くなりますが引用します。

追いつめられた時にこそ、ふだんは見えない実態が明らかになる。国際組織たるものがほこり高いUN(国連)のマークをあわてて消すなど、笑えぬこともあった。「アジア系の人を残留部隊にして」自分たちが我先に逃げる計画も普通であった。その狼狽ぶりは皆を落胆させた。「イスラム教徒のメンタリティを疑う」人びとが、あっさりと現地を見捨てて去っていく。格調高いヒューマニズムも、援助哲学も、美しい業績報告とともに、ついにガラスの陳列棚からおどりでることはなかった。心ある人びとは沈黙していた。

(p.134)

一般に日本のNGOは、欧米のそれに比べて歴史の浅いせいか、日本での対内宣伝が派手なわりにはかんじんの現地活動の中身が少なく、サロン的な色彩が強いことが多いものである。
もちろん、「国民運動」として国際理解の場を提供するのは決して悪いことではない。地方自治体の間で流行する国際イベントも、長い目で見れば試行錯誤のはじまりである。賢明な者ならば、やがてその空疎な行事の反省から次の飛躍を生みだしていくだろう。問題は「過ってあらたむるにはばかることなかれ」という謙虚な自省をどこまで持ち得るかである。

(p.175)

これから国際支援に携わる人にはぜひ読んでほしい一冊です。

国際支援とまでは行かなくても、「融資」や「資金繰り」等に関わる人にも読んでみてほしいです。現場では結局、綺麗なパンフレットやウケのいい文言が幅を利かせるのでしょうけれど、本当に他人のためになる支援とは何か、踏み込んで考える人が増えてほしいと切に願います。

書類の体裁だけ整えて助成金引っ張ろうとしているのを見るとため息が出ます。

 

本物の英雄だった

中村医師は「施してやる日本人」ではなく、ほとんど「現地の医者」として活動していました。自分自身の問題として、必要だから診療所を建て、必要だから後任を育てています。赴任したばかりの頃は現地の習慣・風習に驚いたり戸惑ったりもしていますが、最終的には心根ごと現地人になっています。大袈裟でなく「この人がいなかったらアフガニスタンの医療は本当にどうなっていたかわからない」と思わされる、本物の英雄です。

夜空を見上げると(笑)、自分はなんてちっぽけなんだとか、人間一人にできることなんてたかが知れていると思いがちですが、こういう本を読むと「すごい人は本当にすごい(語彙)」と驚かされます。世界を動かしているのは政治家や資本家、毎日テレビに映る人ばかりではなく、地道に、静かに、大きな変化を起こしている個人が存在するわけです。創作者としては「この世より面白いフィクションはなかなか作れんなあ」と思いました。

 

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次回は江國香織さんの『神様のボート』を読んでみます。