「読み速」年末のご挨拶

2022年1月21日


こんばんは、管理人です。
今年も一年、ご訪問ありがとうございました。

アクセス数は見事に右肩下がりなのですが、まだポツポツと晒し依頼が来るので、もうしばらく続けようと思います。
晒しとその他のコメント、以前は分かれていたのに混ざってしまったのは、どうやらあの分けて表示するプラグインが原因でエラーが出てしまうらしく、削除したためです。
ご了承ください。

さて、大晦日恒例の管理人作品です。
今年は(もとい来年は?)僭越ながら連載をさせていただきます。
毎週金曜更新で全12話の予定です。
よろしければ読んでやってください。

来年もよろしくお願いします。




『新大陸の武器商戦』第1話「進言」



「良い刀を打てば売れる――とでも思っているのかしら?」

 赤毛の少女は自信に満ちた声で言った。
 構えもせずベタ足で歩み寄って胸を刺すような、無遠慮で重い一撃。剣術というより暗殺術。闘気も邪気もなく、ゆえに御し難い。
 それまで知らぬふりを決め込んで鉄を打ち続けていた親父の手が止まった。
 そう思っているのだ、やはり親父も。良い刀を打てば売れる。いつか、思い出してもらえる。

「考えを改めるべきよ、エルディンさん。もうそんな時代は終わったの。鍛冶屋もユーザーのニーズに応えないといけないわ」

 親父は言葉を返す代わりに、再び鉄を打ち始めた。
 心なしか音が鈍い。きっとこう思っているだろう――こいつは失敗作だ。雑念が混じっちまった。
 少女は構わず続けた。

「そもそも刀が時代遅れなの。知ってる? ダイアクラブの因子が拡散して、この大陸の魔物はどんどん硬質化してる。今は斬るより叩き割るのがトレンドなのよ。つまりあなたは鈍器を作るべき。刀じゃなくて、今あなたが使ってるみたいな」
「鈍器が売れてるのは知ってる」背後の親父に代わり、俺が応じた。「でもそれはどこの店もやってるだろ」
「差別化のつもり? いえ、差別化は大事よね。ここは港から遠いし外観も古臭い。よそと同じことをやっても売れないかもしれない。それでもニーズは最優先よ。客はね、自分が欲しいものを買うの。あなたたちが売りたいものじゃない」
「鈍器ならよそで買える」
「そう言って、時流を無視し続けるの? その結果がこの有り様なんじゃないのかしら?」

 店には少女と親父と俺の三人だけ。他に客はいない。
 たまたまではない。今月はまだ一振りも売れていないのだ。
 危機感は、俺にはある。親父はどうだろうか。

「同じ鈍器でもいくらでも個性は出せるのよ。握りやすさ、ヘッドの形状、重量バランス。何より、あの名匠エルディン・クラックの作というネームバリューがあれば、十分この店の商品を選ぶ理由になり得るわ」

 少女の言うことは、俺もずっと考えていた。
 そろそろ変わらなきゃいけない時期なんじゃないか。刀一筋じゃもうやっていけない。
 考えるばかりで、とても言えなかった。

「でも、そのネームバリューもいつまでももたない。若手の開拓者はもう名前も知らないかもね。あまり時間はないわ。すっかり過去の人になってしまう前に、手を打たなきゃ」

 少女の目は輝いている。赤熱した鉄塊のように。
 二つに束ねられた髪もまた炎のように煌めいている。

「なんでそこまで……」
「何?」
「……あんた、何がしたいんだ? なんでうちの店に口を出す?」
「私の名前はハイネ。鑑定士。そして、エルディン・クラックの刀を心から愛する者」

 心から、愛する。
 歯の浮くような言葉をハイネは堂々と言った。

「このまま埋もれてほしくないの。エルディンさんは本物の名匠。だけど、どんなに良い刀を打っても、今はそれだけじゃ売れない。開拓の状況は変化する。武器屋も数え切れないほど増えた。対応しなきゃ生き残れない」
「なるほどなァ」親父が手を止め、口を開いた。「それがお嬢ちゃんの『対応』ってわけか」
「私の?」
「鑑定士ももうお呼びじゃねぇんだろ。最近は使い捨てが流行ってる。長持ちする質のいい武器なんか求められちゃいない。お嬢ちゃんが自慢の目で稼げる時代は終わっちまったわけだ」
「ちゃんとわかってるじゃない、世の中のこと」
「わかってても曲げる気がねぇのさ。オレはオレが良いと思う刀を打つ。それだけだ」
「売れなくても?」
「売れる売れないはどうでもいい」

 どうでもいいってことはないだろう。
 今月の鋼の支払いはどうするんだ。金がなきゃ店を続けられない。それどころか生きてすらいけない。
 心配事は全部俺にさせて、本当に、どうするつもりなんだ?

「オレは売るために刀を打ってるわけじゃない」
「あなたは鍛冶屋。売れるものを作るべき」
「これ以外に生き方を知らなかっただけさ。他人に合わせる気はない」
「ねぇ、エルディンさん。あなたは昔気質の頑固ジジイってわけじゃないでしょう? 常識を破った実績がある。刀鍛治と研ぎ師の二刀流なんて、以前は考えられなかった」
「やれると思ったからそうした。常識を破ってやろうなんてつもりはなかった」
「とにかく、方針転換が必要よ」
「何も変える気はない」
「店が潰れてもいいの?」
「潰れるか潰れないかは、客が決めることだ」

 ハイネが眉をひそめる。

「客が?」
「オレの刀は正しく使えばダイアクラブの殻も斬れる」
「知ってるけど、客の腕の所為にするわけ? 商品が売れないのを」
「所為もクソもねぇさ。オレは斬れる刀を打つ。要らねぇってんなら仕方ねぇ。押し付けるわけにもいかねぇだろ」
「そこを何とかするのが商いよ」
「あいにく興味がなくてね」
「だからあなたは考えなくていい。私を雇ってくれたら、この店を復活させてみせる」
「断る」
「もう刀を打つなって言ってるわけじゃないのよ。ひとまず売れ筋を作って客を呼び込むの。この綺麗な刃紋も、見てもらわなきゃどうにもならない」
「帰れ」
「エルディンさん、私はあなたの刀を守りたいの。最近の開拓者たちが技術の要らない武器に流れてることは私も残念に思う。でも、ここで黙々と仕事を続けてもその流れは変えられない。価値を知ってもらうには工夫が要る。あなたは使ってほしいと思ってるはず、自分の打った刀を」
「ありがとな、お嬢ちゃん。親身になってくれて」
「……」
「話は終わりだ。バド、帰ってもらえ」
「エルディンさん!」
「叩き出せ。仕事の邪魔だ」

 そう言って、親父が打ちかけの刀を屑鉄置き場に投げ捨てた時、

「こんにちは〜、刀くーださいっ」

 長身の開拓者がしまりのない顔で現れた。

「なんだ、カールス。また折ったのか」
「いやぁ、硬いッスよ、ガルマジロ。すげー速さで回りながら突っ込んでくるし」
「オメーの腕が足りないだけだ」
「わかってますって。だからまた買いに来たんでしょ」
「無駄遣いしやがって」
「僕の懐を心配してくれるんですか? エルディンさんは優しいなぁ」
「うるせえ。買うもの買ったらさっさと帰れ」
「今日は機嫌いいですね。かわいいお客さんのおかげかな?」

 カールスが笑顔をハイネに向けた。

「はじめまして、常連のカールスです」
「私は客じゃないわ。この店のコンサルタントよ」
「断るっつってんだろ。バド、何度も言わすな。さっさとそのガキを叩き出せ」
「私は子供じゃないわ。もう21よ」
「へぇ、僕も若く見られるほうだけど君も相当だね。14ぐらいかと思った」
「バド!!」

 親父の怒声に急かされて、俺はハイネを店の外へ連れ出した。

「気持ちは嬉しいよ」
「……」
「俺も正直、このままじゃまずいと思ってる」
「だったら」
「でも、カールスみたいにわかってくれる客もいるんだ。まだもう少しやっていけると思う」
「もう少しって、いつまで?」
「……」
「いつまで続けられると思うの?」

 考えたくない。
 考えなければ先延ばしにできそうな気がする――それは気のせいなのだが。

「私はペローニの宿屋に部屋を取ってる。気が変わったら会いに来て」
「わかった」
「だけど私も、ずっとは待てない。生きていかなきゃいけないから」
「……」
「じゃあね」
「ああ」