『新大陸の武器商戦』第3話「決意」

2022年1月16日

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「良かったわ、間に合って。明日にはここを出ようと思ってた」
「俺が来なかったらどうするつもりだったんだ?」
「それは秘密」
「なんで?」

「あなたと組んで失敗したらそっちをやるかもしれないから。アイディアは軽々しく喋らない」
「おいおい、成功する気でいてくれよ」
「もちろん全力は尽くす。でもそれと二の矢を用意するのはまた別の話」

 ハイネは弱冠21歳、俺より3つも下とは思えないほど、断固たる口ぶりで話す。
 明瞭な言葉と鋭い眼差しは、親父の刀を思わせる。だからハイネは親父の刀に傾倒しているのかもしれない。似たもの同士は惹かれ合うという。

「しかし、せっかちだな。1週間ぐらいは待ってくれるかと思ってた」
「3日でも待ったほうよ。物事の判断に無駄な時間をかける人とは組めない。あれこれ迷っても商機を逃すだけ」

 協会の話が飛び出してこなければ、俺は今でも悶々と考え続けていただろう。運が良かった――ということになるのか。
 とにかく、もう迷わない。先に進む。親父の言う通り、俺は俺の好きに生きる。

「それで、エルディンさんは鈍器を作ることに同意してくれたのよね?」
「……」
「もしかしてまだなの? てっきりその話が決着したから来てくれたのかと……」
「いや、実は全然違うんだ」
「え?」
「あの店はたたむ」
「……は?」
「俺が一人で、新しい店を開く。ハイネにはそのコンサルを頼みたい」

 ハイネは腕を組み、2秒か3秒、俺の目をじっと見ていた。そして、かすかに口元を綻ばせて言った。

「ふーん。そう来ましたか」

 ◇ ◇ ◇

 親父とは決別して、武器とは無関係の、全然違う道を探してもいい。そうしていいと言われている。
 でもやっぱり、どうしても、俺は親父の刀が好きで、自慢なんだ。人格はゴミでも作品は宝。煌めいている。落ち目になったのも、他に優れた刀が出てきたからじゃない。時流から外れただけ。たった一代で頂点に登り詰めた。少なくともレテ川までは親父の刀がこの大陸を切り拓いた。
 だから、俺が売る。
 大人しく協会にも入る。流行りに迎合して売れ筋も仕入れる。その中で、親父の刀も売っていく。親父にはできないことを、俺がやる。

 ハイネは俺の考えを理解し、物件探しから協力してくれた。
 あのまま店を続けて、親父はあくまでもただの職人で店とは無関係……という形を取ったほうが、出費は抑えられた。しかしその体裁で協会が納得してくれるかは怪しいし、一つ屋根の下で暮らしていれば結局また衝突するだろう。
 物理的に距離を取ることは必須条件。これからはハッキリと俺は商人に、親父は職人になる。中途半端に「親子」でいないほうがいい。

「コルシェ村で物件を探そうと思うんだ」

 東海岸とレテ川のおよそ中間に位置するコルシェ村。宿屋や食料品店は多いが武器屋はまだ少なく、最近は南に広がる砂漠地帯が「残された未開地」として注目され始めている。

「うーん、目の付け所は悪くないわ……普通の新規出店ならね」
「普通の?」
「エルディンさんの刀は耐久性が持ち味の一つ。長く使い続けてもらってこそ価値がある。だいいち、最近は刀を選ぶ開拓者も少ない。コルシェ村まで来て新たに刀を使い始めようとする人はあまりいないんじゃないかしら」
「そうか、確かに……」
「エルディンさんの刀を目玉にする店なら、やっぱり東海岸の激戦区に切り込んでいくのが一番いいと思うわ。工房からあまり離れたら仕入れのコストがかかるし」
「でも、本当に大丈夫なのか? 激戦区で……」
「……」
「東海岸で売るのが一番いいとは俺も思う。でも、正直勝ち目はあるか? 人気店と真っ向からぶつかるより、買い取ってくれる店を探して……」
「あなたはそれでいいの?」
「……」
「バド。他の誰でもない、あなた自身が、エルディンさんの刀を売りたいんじゃないの?」

 ステッキの男が囁いた「買い取り」。活路はそこしかないと、いつの間にか思い込んでいた。
 ハイネの言う通りだ。俺が売りたい。

「けどさ、実際、東海岸からそう遠くない今までの店で、見向きもされなかったわけで……」

 そこでハイネは少し、表情を緩めた。

「決意した割に、慎重なのね」
「悪かったな」
「いえ、いいことよ。私は強気で押していくタイプだから、バランス取れると思う。これからも気になることがあったら遠慮なく言って」
「……わかった」
「それで、バドが心配するのはごもっとも。東海岸に店を出しても大コケするかもしれない。リスクはある」
「だよな」
「でも、聞いて。私に秘策がある」
「秘策?」
「エルディンさんがどうしても鈍器を作ってくれない場合に備えて考えておいたの。鈍器とか最近の売れ筋は他から仕入れればいいわけだから、この手が使える」
「用意がいいんだな」
「世の中、思い通りに行かないことのほうが多いからね。だからこの手も上手く行くとは限らないわけだけど」
「それで、どんな手だ?」
「少し考えてみて。ヒントは、『欲しがってる人に売る』」。
「……?」
「前線で戦う開拓者だけが顧客じゃないってことよ」